- 脳のストレス対処力
- ストレッサーは「情動」を生み出す
地球上に生命が誕生したのは約56億年前と考えられています。そして人類の進化を経て現在の人間の姿となる「ホモ・サピエンス」は約20万年前に誕生しました。ホモ・サピエンスが誕生した後、歴史上のほとんどの器官は狩猟採集生活をして過ごしてきました。
狩猟採集生活においては、現代とは異なり、「今日一日をどう生き延びるか」という生命の危機と常に隣り合わせでした。

こうした古代に生きた祖先には、どのような情動が生じていたのでしょうか。獲物や食料を得ることができれば快楽や喜びに満ち溢れます。しかし、獲物や食料を得るための道中や戦いの場では常に恐怖や不安がつきまとうといった命の危険を脅かすレベルの情動が生じていたことが想像できます。
やがて時は流れ、農耕の技術を身につけた人間は、定住生活を行うことができるようになり、そこでは新たな社会が形成されるようになりました。そして、貨幣の使用や経済活動の発展に伴い貧富の差が生まれ、産業革命以降はさまざまな技術革新が進み、現代社会においては行動範囲や人間関係が大幅に広がり、大量にあふれる情報の中で暮らすことが当たり前になりました。
このような生活の変化は、ストレッサーの質や種類の変化をもたらしました。そして現代に生きる私たちの脳で日々生じる情動も大きく変わってきました。つまり、喜びや悲しみ、恐怖や怒りといった情動が生まれてはいるものの、それはほとんどが「生命の危機」に伴うものではなく、「社会生活」や「人間関係」などに伴う情動であるということです。
こうした情動の変化によって、ストレッサーに対する脳の対処力も自然と変化してきました。そこに大きくかかわるものが脳内の「前頭前野」の発達です。
特定非営利活動法人 日本成人病予防協会 発行「ほすぴ 183号」より抜粋