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【ストレスの正体~神経伝達物質が与える影響~】その13
*「脳を操る」神経伝達物質
(4)タバコはなぜやめられない?「アセチルコリン」
〈アセチルコリンとは〉
アセチルコリンは、最初に発見された興奮性の神経伝達物質です。アセチルコリンは、学習や記憶、覚醒などに関係しています。



〈喫煙との関係〉
長年、習慣的にタバコを吸っていると、禁煙の難しさを感じる人は非常に多いです。依存原因はタバコに含まれている「ニコチン」という物質です。ニコチンは、神経伝達物質のアセチルコリンと分子構造が似ており、脳は勘違いをしてアセチルコリン専用の受容体にニコチンを結合させてしまいます。
また、体内で生成されるアセチルコリンはすぐに分解されますが、ニコチンの分解には時間がかかります。受容体に留まり、強い刺激を脳に与え続けることでドーパミンの放出を促します。その結果、気分がスッキリとし、やる気が出るようになります。さらに、ドーパミンが出ると、ドーパミン抑制物質であるセロトニンが大量に放出され、精神が安定しリラックスできるのです。こうした脳内の神経伝達物質の生成が、タバコを吸うことによって得られる「快感」「リラックス効果」の正体ということになります。
しかし、それは喫煙時に起こる一時的なものです。喫煙を長く続けていると、いつもニコチンが神経伝達物質に作用して分泌を促すため、神経伝達物質自体の働きが鈍くなります。その結果、常にニコチンを補充しないとイライラし、気持ちが落ち着かなくなるためタバコを吸ってしまうのです。こうした自分の意志ではなかなか回避できない無限ループに陥ってしまうのも、神経伝達物質による強い影響を受けるためです。

特定非営利活動法人 日本成人病予防協会 発行「ほすぴ 181号」より抜粋

【ストレスの正体~神経伝達物質が与える影響~】その12


*「脳を操る」神経伝達物質
(3)パニック障害の原因「ノルアドレナリン」
〈パニック障害の3大症状〉
*パニック発作
パニック障害の特徴的な症状であり、急性・突発性の発作です。パニック発作は、原因やきっかけなしにいつどこで起こるかわからない予期しない発作です。突然の激しい動機、胸苦しさ、息苦しさ、めまいなどの身体症状を伴った強い不安に襲われるもので、「心臓発作ではないか」「死んでしまうのではないか」などと考え、救急車で病院へ向かう場合もしばしばあります。しかし、発作は10分以内にピークを迎え、その後すぐに治まるため病院についたころには落ち着いていることがほとんどです。

*予期不安
パニック発作を繰り返すうちに、発作のないときでも次の発作を恐れるようになります。「また起きるのではないか」「次はもっと激しい発作が起こるのではないか」といった不安が消えなくなります。こうした予期不安が、パニック障害では多くみられます。

*広場恐怖
広場恐怖は、パニック発作が起きたとき、そこから逃れられない、あるいは助けが得られないような場所や状況を恐れ、避ける症状のことをいいます。そのような場所や状況は広場とは限らず、一人での外出、人混みなどさまざまな状況が考えられます。パニック障害では、ほとんどの患者さんがこの広場恐怖を伴っており、日常生活や仕事に支障を来す場合が多く見られます。サラリーマンであれば電車での通勤や出張、主婦であれば買い物などがしばしば困難になります。誰か、信頼できる人が同伴したり、近くであれば外出も可能ですが、その結果家族に依存したり行動範囲が縮小した生活を余儀なくされる場合が多くあります。こうした広場恐怖を伴うパニック障害によるQOL(生活の質)の低下は、見かけ以上に大きいといわれています。

特定非営利活動法人 日本成人病予防協会 発行「ほすぴ 181号」より抜粋
【ストレスの正体~神経伝達物質が与える影響~】その11
*「脳を操る」神経伝達物質
(3)パニック障害の原因「ノルアドレナリン」



〈ノルアドレナリンとは〉
ノルアドレナリンは、興奮性の神経伝達物質です。また、副腎髄質からホルモンとしても分泌されます。ノルアドレナリンを分泌させる主な外的要因は、痛みや痒み、寒暖差などであり、内的要因としては、職場の人間関係や、家族との不仲などの悩みです。ノルアドレナリンの主な作用としては、興奮や覚醒、恐怖や怒り、不安、集中力などに関係しています。特に、戦うべきか、逃げるべきかといった緊急事態の際に働きます。短時間のうちに体と脳を恐怖や不安など、外からのストレスに対応させます。

〈パニック障害〉
不安障害の代表格であるパニック障害は、ノルアドレナリンとの関連性が高いとされています。ノルアドレナリンの分泌が高まった際、心臓の鼓動が促進され、血圧の上昇、瞳孔の拡大などが起きます。脳の活動や集中力もアップさせ体を臨戦態勢にしますが、ノルアドレナリン神経系が異常に興奮しすぎると、パニック障害を起こすことがあります。また、ノルアドレナリンの働きを抑制するセロトニンやGABAの働きが弱くなっていることも要因として考えられています。

特定非営利活動法人 日本成人病予防協会 発行「ほすぴ 181号」より抜粋

【ストレスの正体~神経伝達物質が与える影響~】その10
*「脳を操る」神経伝達物質
(2)どうして依存症になるの?「ドーパミン」

〈パーキンソン病〉
 60歳以上の高齢者に多く発症する脳の病気の1つがパーキンソン病です。1817年、イギリスのジェームス・パーキンソンが初めて報告したことでこの名がつけられました。日本人では10万人当たり100~150人程度が発症すると推測されています。パーキンソン病の主な症状は、運動機能の障害です。体の動きが鈍く、手足が震えるようになり、顔の表情も乏しくなるほか、歩くとき前かがみになり転びやすくなります。そして、症状が進行すると歩行不能になってしまいます。
 パーキンソン病の原因は、脳幹にあるドーパミンを分泌する神経核の黒質が変性し、死滅するためだといわれています。しかし、なぜ黒質が変性するのかは分かっていません。黒質からは、ドーパミン神経系が運動機能に関係のある大脳基底核の「線条体」へ伸びていますが、黒質が変性してしまうことで、線条体でのドーパミンの放出が減少してしまいます。その結果、パーキンソン病特有の症状が現れると考えられています。
 パーキンソン病の治療では、ドーパミンを補充する薬物療法が選択されます。しかし、ドーパミンを直接摂取してもドーパミンそのものは血液脳関門に遮断され脳まで届かないため、ドーパミンの前駆物質が使われます。前駆物質であれば脳に入ることができ、脳内でドーパミンに変化するからです。


特定非営利活動法人 日本成人病予防協会 発行「ほすぴ 181号」より抜粋

【ストレスの正体~神経伝達物質が与える影響~】その9
*「脳を操る」神経伝達物質
(2)どうして依存症になるの?「ドーパミン」



〈依存症・覚せい剤〉
ドーパミンの報酬を求めるが故に、人生をも狂わせてしまうのが覚せい剤です。覚せい剤は、構造がドーパミンに似ているため受容体を騙して結合してしまいます。通常、脳内で産生された神経伝達物質は、受容体へ結合した後、すぐに分解され離れるようになっていますが、覚せい剤は受容体へ結合したまま留まり信号を伝え続けます。そのため、異常な快楽を感じるようになるのです。
また、覚せい剤はドーパミンに扮するだけでなく、ドーパミントランスポーター(放出されたドーパミンを再取り込みする場所)に蓋をし、放出されたドーパミンの再取り込みを阻害します。そのため、シナプス間隙に多量のドーパミンが溜まることになり、脳内のドーパミン濃度が高くなるのです。その結果、強い興奮や快感を感じるようになります。
 さらに、ドーパミンの分泌が過剰になると、幻覚や妄想が起きるようになります。これはドーパミンの過剰が原因で起こる「統合失調症」と同様の症状です。

*覚せい剤の使用料が増えていくのはなぜ?
脳内では、神経伝達物質のバランスを常に保とうという働きがあり、ドーパミンのような興奮側に作用する薬を一定量摂取すると、それを抑制するように働きます。そのため、しばらくするとその量を摂取した状態で“バランスが取れた状態”となり、同量では興奮作用が抑制されて効かなくなってしまいます。これを耐性といいます。耐性を獲得すると、今までより量を増やさないと同じ効果が得られなくなります。
ここで摂取を中止すると、バランスが抑制側に傾いてしまい、禁断症状が現れるようになるのです。こうしてどんどん使用量が増えていってしまうのです。

特定非営利活動法人 日本成人病予防協会 発行「ほすぴ 181号」より抜粋

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健康記事【ストレスの正体~神経伝達物質が与える影響~】その8

*「脳を操る」神経伝達物質

(2)どうして依存症になるの?「ドーパミン」

 

〈依存症〉

ドーパミン神経系は、より大きい快楽を求め続けます。それが仕事や勉強といった自分にとってプラスに働くものであればよいのですが、時としてその快感を再び味わいたいという欲求に負けて、依存症や中毒になってしまう場合があります。

例えばパチンコ依存症です。現在のパチンコは、一発大当たりで大量の出玉が獲得できるようになっています。大当たりしたとき、ドーパミンが大量に放出され快感を得ます。すると脳は、この快感を何度も味わいたいと思うようになり毎日のようにパチンコをしたくなってしまうのです。そのほか、ドーパミンの快楽を求め、買い物依存症やゲーム依存症などを引き起こすこともあります。

また、アルコール依存症の場合は、アルコールを摂取することによりドーパミンの放出を抑える神経伝達物質の分泌が低下し、結果的にドーパミン濃度が高くなります。

厚生労働省は、「健康日本21」の中で「節度ある適度な飲酒」と「多量飲酒」について定義しており、前者は「1日平均20g程度の飲酒」、後者は「1日平均60gを超える飲酒」です。定義に使用される飲酒量とは、お酒に含まれる純アルコール量のことであり、20gはおおよそ「ビール中ビン1本」「日本酒1合」「チュウハイ(7%)350mL缶1本」「ウイスキーダブル1杯」に相当します。

アルコール依存症に陥ると、アルコールを飲むことによってさまざまな問題が生じているにもかかわらず、飲酒をコントロールできなくなり、飲む量を増やさないと酔った気分にならず、手が震えたり動機がしたりといった離脱症状が表れます。わが国では、現在約80万人がアルコール依存症の状態であると推定されています。

 

特定非営利活動法人 日本成人病予防協会 発行「ほすぴ 181号」より抜粋

 
健康記事【ストレスの正体~神経伝達物質が与える影響~】その7

*「脳を操る」神経伝達物質

(2)どうして依存症になるの?「ドーパミン」

〈ドーパミンとは〉

ドーパミンは快楽物質とも呼ばれています。快感や幸福を感じるのは、脳内にドーパミンが分泌されるためです。ドーパミンは何かをしようとする意欲や動機付けにも関係しています。新しいことを始めようとしてワクワクするのもドーパミンの分泌によります。

また、ある行為でドーパミンが放出され快感を得ると、脳がそれを学習し、再びその行為をしたくなるのです。ドーパミンは脳にとってこの上ない快楽をもたらす報酬なのです。そして、さらに大きな快楽を得ようと努力するようになります。

こうした報酬形の学習サイクルは、動物が環境に適応し、生きていくためになくてはならないものです。人が高度な社会を築くことができたのも、より大きな快楽や幸福を得るための活動を繰り返してきたからです。人は常に快楽(ドーパミン)を求めて行動しているといえるでしょう。

 

〈ドーパミン神経系〉

ドーパミンを放出する主要なドーパミン神経系は、脳幹にある「腹側被蓋野」と「黒質」から伸びています。腹側被蓋野から伸びる神経系は、大脳辺縁系にある「側坐核」及びその先にある「前頭連合野」へ達しています。側坐核や前頭連合野でドーパミンが放出されることで、快楽や幸福を感じ、やる気が出るのです。しかし、ドーパミンが増えすぎると、感情や思考、行動などを統合することができなくなる「統合失調症」になり、幻覚や妄想などの症状が起こるようになります。

また、黒質から伸びる神経系は運動機能に関係する「線条体」に達しているため、黒質が変性するとドーパミンが減少しパーキンソン病になります。

次週以降、さらに詳しくドーパミンにかかわる依存症や病気についてみていきましょう。

 

特定非営利活動法人 日本成人病予防協会 発行「ほすぴ 181号」より抜粋

 
健康記事【ストレスの正体~神経伝達物質が与える影響~】その6
*「脳を操る」神経伝達物質

神経伝達物質ごとの分泌異常によって起こる心の変化や病気について紹介します。

 

(1)神経疾患の現状

近年、精神疾患により医療機関にかかっている患者数は大幅に増加しており、2017年の時点で400万人を超えています。内訳としては、多いものから「気分障害(うつ病など)」「不安障害(神経症性障害など)」「統合失調症」と続きます。



これらの疾患は、神経伝達物質の影響を大きく受けています。各神経伝達物質の働きと、それにかかわる疾患、また、薬の作用などについてみていきます。

 

特定非営利活動法人 日本成人病予防協会 発行「ほすぴ 181号」より抜粋

 
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